東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2033号・昭31年(ネ)2042号 判決
そこで、被控訴人は、「本件和解による一〇四号宅地の明渡期限はその後三日間猶予されたが、控訴人斎藤はその猶予期限内にも右宅地を明け渡さなかつたので、前記和解条項により、本件土地所有権の譲渡を受けることができなくなり、従つて、本件土地は被控訴人の所有に属する。」旨を主張するのである。
原審及び当審証人倉田靖平の証言の一部、当審証人斎藤千代子の証言竝びに原審及び当審における控訴人斎藤本人の供述を総合すると、次のような事実が認められる。すなわち、本件和解成立当時、一〇四号宅地上にある控訴人斎藤所有の建物二棟には三世帯二十数人が居住しており、これらの者を立ち退かせるため、控訴人斎藤は、本件土地に新らたに建物を建築する必要等があつた関係上、本件和解による明渡期限である昭和二六年七月三〇日までには右建物を収去することができなかつたので、同月末頃被控訴人の代理人倉田靖平に対し、一〇四号宅地の明渡期限の猶予を求めたところ、同人から同年八月五日までの猶予を得た。(右明渡期限が猶予されたのは三日間であるとの被控訴人の主張事実については、これに添う原審及び当審における被控訴人本人の供述は信用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠がない。)ところが、一〇四号宅地上の建物に居住する者のうちに病人がでたりしたため、控訴人斎藤は、右猶予期限までには建物の一部を収去したのみで、全部を収去することができず、同月八日午前には倉田靖平から、きびしく収去の督促を受けることになつたが、同日夕ようやく収去が完了したので、現場で倉田靖平に対し一〇四号宅地を明け渡したところ、同人は異議なくこれを受けた。以上の事実が認められ、この認定に反する原審及び当審における証人倉田靖平の証言部分及び被控訴人本人の供述は、前掲の証拠に比照して、信用することができない。
以上認定の事実に、被控訴人が、昭和二六年八月五日の猶予期限までに一〇四号宅地の明渡を受けなければ、本件和解の目的を達し得られなかつたというような特別の事情も認められないことを合せ考えると、被控訴人はこの数日の遅延を問題としないで、控訴人の明渡の義務はこれで履行せられたものと了承したと認めるを相当とする。従つて前示和解における控訴人の債務不履行による効果は発生しないで終つたと解せざるを得ない。してみると、本件土地所有権の譲渡は、その効力を失い、本件土地は被控訴人の所有に属するとの被控訴人の主張は、理由がない。
(角村 菊池 吉田豊)